労務費に関する基準と、著しく低い労務費等の見積り・契約の禁止(令和7年12月12日施行)
建設業法の改正で、見積書の内訳明示、著しく低い労務費等の禁止、受注者側の原価割れ契約の禁止が加わりました。見積り・契約・経審のそれぞれで何が変わるかを整理します。
建設業法・国土交通省担い手の処遇改善を目的とした建設業法の改正のうち、労務費に関する部分は令和7年12月12日に施行されました。中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成して勧告し、これを著しく下回る見積りや契約が禁じられています。この記事は、建設業法(e-Gov法令検索)と国土交通省の説明資料・運用方針から、見積り・契約・経審(経営事項審査)の読者に関わる点を整理します。個別の取引が違反かどうかは、国土交通省や許可行政庁の判断が優先します。
改正の全体像と施行日
国土交通省の説明資料「改正建設業法『令和7年12月施行分』説明会」によると、労務費に関する改正の内容は次の3つです。
| 内容 | 時期 |
|---|---|
| 中央建設業審議会に「労務費に関する基準」の作成・勧告の権限を付与(建設業法第34条) | 令和6年に施行済み。基準は令和7年12月2日に作成され、実施が勧告された |
| 著しく低い労務費等による見積り・見積り変更依頼の禁止 | 令和7年12月12日施行 |
| 原価割れ契約の禁止を受注者にも導入 | 令和7年12月12日施行 |
基準の「労務費に関する基準」は、公共工事か民間工事かを問わず、元請と下請の取引を含めて、適正な労務費の水準を示すものとして位置づけられています。
見積りで変わること:材料費等記載見積書
建設業法第20条は、建設業者に対して、工事の種別ごとの材料費、労務費、適正な施工の確保に不可欠な経費(国土交通省令で定めるもの)などの内訳と、工程ごとの作業と準備に必要な日数を記載した見積書(材料費等記載見積書)を作成する努力義務を定めています。
- 受注者(見積りを出す側):材料費等記載見積書に書く材料費等の額は、工事を施工するために通常必要と認められる額を著しく下回ってはなりません(第20条第2項)。注文者から請求があれば、契約が成立するまでに、この見積書を交付しなければなりません(同条第4項)。
- 注文者(見積りを受ける側):見積書の内容を考慮する努力義務があります(同条第4項)。交付を受けた見積書の材料費等の額について、通常必要と認められる額を著しく下回ることになるような変更を求めてはなりません(同条第6項)。
契約で変わること:禁止される3つの行為
| 禁止される行為 | 対象 | 根拠 |
|---|---|---|
| 著しく低い労務費等による見積書の作成 | 受注者 | 第20条第2項 |
| 著しく低くなる見積書の変更を求めること | 注文者(発注者) | 第20条第6項 |
| 通常必要と認められる原価に満たない請負代金での契約 | 注文者(地位の不当な利用)、受注者(建設業者)の両方 | 第19条の3第1項・第2項 |
受注者が原価割れ契約を禁じられるのは、令和7年12月12日施行の改正点です。ただし、保有する低廉な資材を使える場合など、国土交通省令で定める正当な理由があるときは除かれます(第19条の3第2項)。
違反した場合、建設業者は指導・監督の対象です。注文者のうち、変更を求めた発注者が、その変更後の見積書に基づいて一定額以上の請負契約を結び、適正な施工の確保のため特に必要があると認められるときは、国土交通大臣または都道府県知事が勧告できる仕組みが第20条に置かれ、国土交通省の資料は、違反した発注者への勧告・公表を案内しています。
基準との差の考え方(運用方針)
国土交通省の「『労務費に関する基準』の運用方針」(令和7年12月)は、見積りの水準を次のように整理しています。
| 場面 | 運用方針の考え方 |
|---|---|
| 基準が想定する条件より歩掛が悪い(小ロット工事など) | 基準よりも高い労務費が適正。受注者は基準より高く見積もる必要がある |
| 基準が想定する条件より歩掛が良い | 基準よりも低い労務費が適正。発注者は、合理的な範囲で基準より低くできないか交渉してよい |
| 基準と同じ条件で、基準より低く見積もる | 基準を下回る水準は原則として不適正。基準を著しく下回る水準は違法 |
| 機械導入などで歩掛を改善して低く見積もる | 差し支えない。実際にその歩掛で施工できる理由を説明できることが必要。根拠なく歩掛を割り引くと、著しく低い労務費での見積りとして違反のおそれがある |
「お得意様価格」や閑散期の値引きで総価を安くすること自体は否定されませんが、運用方針は、請負代金の総価は原則として第19条の3の「通常必要と認められる原価」以上である必要があるとしています。
経審との関係
この改正が定めるのは、見積りと契約のルールです。経審の評点に、労務費に関する基準への適合や、材料費等記載見積書の作成を直接の項目とするものは、確認できた範囲ではありません。
関わりがあるのは、令和8年7月1日施行の経審改正で新設されたW点の「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」です。国土交通省の経審改正の説明資料は、宣言の必須項目の一つに「労務費の確保・行き渡り等のための取組」を挙げ、その中で労務費・材料費等の内訳を明示した見積書を作成することを求めています。宣言をした場合の加点は5点です。加点の条件と手順は『建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度』で確認できます。
確認した一次資料
- 建設業法(e-Gov法令検索)第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)、第20条(建設工事の見積り等)、第34条(中央建設業審議会)
- 国土交通省「改正建設業法『令和7年12月施行分』説明会」資料施行日、著しく低い労務費等の禁止、受注者への原価割れ契約禁止の導入、勧告・公表
- 国土交通省「『労務費に関する基準』の運用方針」(令和7年12月)基準との差の考え方、お得意様価格の扱い
まとめ
- 労務費に関する基準は令和7年12月2日に作成・勧告され、著しく低い労務費等の禁止と受注者への原価割れ契約の禁止は令和7年12月12日に施行された。
- 見積りでは、材料費・労務費などの内訳を示した材料費等記載見積書の作成が努力義務で、通常必要な額を著しく下回る記載は禁止。
- 注文者は、著しく低くなる見積りの変更を求められず、違反した発注者には勧告・公表の仕組みがある。
- 経審の点数に直接の項目はないが、自主宣言(W点5点)の必須項目に、内訳明示の見積書の作成が含まれる。
W点全体の構成はW点(社会性等)の記事、就業履歴の加点はCCUSの就業履歴の記事で確認できます。
評点表・算式の転記元は一次資料・出典一覧で確認できます。
よくある質問
- 労務費に関する基準はいつ作られましたか?
- 国土交通省の説明資料によると、中央建設業審議会の作成権限は令和6年に施行済みで、基準は令和7年12月2日に作成され、実施が勧告されました。
- 著しく低い労務費等の禁止はいつからですか?
- 令和7年12月12日施行です。著しく低い労務費等による見積り・見積り変更依頼の禁止と、原価割れ契約の禁止の受注者への導入が、この日に施行されました。
- 材料費等記載見積書は義務ですか?
- 作成は努力義務です(建設業法第20条第1項)。ただし、書く材料費等の額が通常必要と認められる額を著しく下回ってはならず、注文者から請求があれば契約成立までに交付する必要があります。
- 基準より低い労務費で見積もるのは違法ですか?
- 国土交通省の運用方針では、基準と同じ施工条件で基準を下回る見積りは原則として不適正、著しく下回れば違法とされます。機械導入などで歩掛を改善し、その理由を説明できる場合は差し支えないとされています。
- この改正は経審の点数に影響しますか?
- 経審に直接の項目はありません。ただし令和8年7月施行のW点「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」(加点5点)の必須項目に、労務費・材料費等の内訳を明示した見積書の作成が含まれます。
公開日: 2026-10-08
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