受注後の資金繰り

公共工事の代金債権の譲渡・担保と発注者の承諾|約款第5条・民法466条・国の融資制度

公共工事の請負代金債権を、融資の担保にしたり売ったりするときに、発注者の承諾が要る場面と要らない場面を、公共工事標準請負契約約款・民法・国土交通省の融資制度の順に整理します。

約款・e-Gov法令・国土交通省・建設業振興基金・自治体の取扱要領
編集:建設経営ラボ編集部(合同会社フューチャープロンプト) / 運営情報

公共工事の代金は、完成後に払われる残りの部分が大きく、その間は自社の資金で立て替えます。その代金を受け取る権利(請負代金債権)を担保にして借りる、または第三者に譲る方法を考えるとき、最初に確かめるのは契約書の「権利義務の譲渡」の条項です。この記事は、公共工事標準請負契約約款の第5条を軸に、承諾が要る場面、承諾が出る条件、承諾を取らずに譲渡したときの扱いを、一次資料の範囲で整理します。

要点(一次資料で確認できた範囲)

約款の原則
請負代金債権を第三者に譲渡する、または担保に出すには、あらかじめ発注者の承諾を得る(第5条第1項。承諾を得れば可能)
承諾の例(約款の注)
検査合格後に代金債権を譲渡する場合、債権を担保に資金を借りる場合(地域建設業経営強化融資制度などの利用)
資金が足りないとき
第3項を使う契約では、発注者は特段の理由がない限り承諾しなければならない。ただし譲渡で得た資金は当該工事にしか使えない
承諾なしで譲渡すると
発注者は契約を直ちに解除できる(第48条第1項第1号)

約款第5条が定めること

公共工事標準請負契約約款は、中央建設業審議会が定めた契約のひな形です。第5条(権利義務の譲渡等)は、次の4つの項からなります。

公共工事標準請負契約約款 第5条の構成(令和7年12月2日改正)
項内容承諾との関係
第1項契約から生じる権利・義務を第三者に譲渡・承継させてはならない。ただし、あらかじめ発注者の承諾を得たときは除く請負代金債権の譲渡・担保は、承諾が前提
第2項検査に合格した工事目的物・工事材料などを、譲渡・貸与・担保にしてはならない。ただし、あらかじめ発注者の承諾を得たときは除く債権ではなく「物」の扱い。同じく承諾が前提
第3項前払金・部分払などを使ってもなお工事の資金が不足することを疎明したとき、発注者は特段の理由がある場合を除き、請負代金債権の譲渡を承諾しなければならない資金不足の疎明があれば、承諾が原則になる
第4項第3項で承諾を受けたとき、譲渡で得た資金を当該工事の施工以外に使ってはならず、使途を疎明する書類を発注者に出す承諾の代わりに、資金の使い道が縛られる

約款の注は、第1項ただし書が当てはまる例として、受注者が完成検査(第32条第2項)に合格した後に請負代金債権を譲渡する場合と、請負代金債権を担保にして資金を借りる場合を挙げています。後者の例として、「下請セーフティネット債務保証事業」と「地域建設業経営強化融資制度」で借りる場合が名指しされています。

第3項と第4項は、ひな形の注に「第三項を使用しない場合は、同項及び第四項を削除する」とあるとおり、使うかどうかを発注者が選べる条項です。自分の契約に第3項があるかは、契約書の約款で確認する必要があります。

民法466条との関係

民法466条第2項は、当事者が債権の譲渡を禁止・制限する意思表示(譲渡制限の意思表示)をしても、債権の譲渡の効力は妨げられないと定めています。一方、第3項は、制限の意思表示があったことを知っていた、または重大な過失で知らなかった譲受人などに対して、債務者(ここでは発注者)は履行を拒めると定めています。

この2つを約款に当てはめると、次の整理になります。

  • 承諾を得る場合:約款の条件を満たした譲渡になり、発注者は承諾した範囲で譲受人に支払う。
  • 承諾を得ない場合:約款第5条第1項に反する。約款第48条第1項第1号は、この場合に発注者が催告なしで直ちに契約を解除できると定めている。

民法上の譲渡の効力と、約款に違反したことによる契約解除は別の問題です。譲渡そのものの有効性を民法だけで見て、承諾を取らずに進めると、工事の契約自体を失うおそれがあります。個別の契約の法的な有効性は、契約書の全文や事情によって変わるため、この記事では判断しません。

承諾が出る条件は発注者ごとに違う

約款は国の契約のひな形で、地方公共団体は自分の約款や取扱要領で承諾の条件を定めています。次の2つは、地域建設業経営強化融資制度に関する自治体の公表資料から確認できた例です。同じ制度でも、条件が発注者ごとに異なることを示す例として載せています。

地域建設業経営強化融資制度の債権譲渡承諾の取扱いの例(自治体の公表資料)
発注者承諾の対象から外れる工事・時期譲渡できる額の定め
熊本県低入札価格調査の対象となった者との契約、役務的保証を必要とする工事、施工能力に疑義がある工事など検査に合格し引渡しを受けた出来形部分に相応する代金から、前払金・中間前払金・部分払金・違約金等を控除した額
北九州市工事の進捗率が2分の1以上に到達したと認められる日以降でなければ承諾しない市の要領で定める(融資制度等は1つだけ選ぶ)

2つの例からも、「いつから承諾が出るか」「どの工事が対象外か」「譲渡できる額の計算」は、発注者の要領で決まることが分かります。ほかの自治体の条件を、この表から推測してはいけません。受注した工事の発注者の要領を、発注者のホームページか契約担当の窓口で確かめてください。

国の融資制度と承諾の流れ

国土交通省の地域建設業経営強化融資制度は、公共工事等の発注者に対して持つ請負代金債権を担保に、事業協同組合等または一定の民間事業者から出来高に応じた融資を受ける制度です。国土交通省は、制度の利用には発注者が工事請負代金債権の譲渡を承諾していることが必要だと明記しています。請負金額から前払金等を差し引いた範囲内で融資を受けられ、制度は令和13年3月31日まで延長されています(令和8年1月30日の通知)。

建設業振興基金の案内では、融資実行までの流れは次の順です。承諾の申請は、融資事業者が代わって出す場合があります。

  1. 融資事業者へ問い合わせ
  2. 融資事業者へ融資の申込み
  3. 発注者へ債権譲渡の承諾の申請、承諾
  4. 融資事業者と債権譲渡契約を結ぶ
  5. 融資の実行

国土交通省のパンフレットによると、受注した公共工事の出来高が5割に達した場合に、出来高に応じて融資を受けられます(複数回の利用が可能)。出来高を超える部分の融資は、前払金を受け取っている場合に、保証事業会社の金融保証を受けた金融機関から受けられます。承諾の時点・条件は、前の節のとおり発注者の要領で決まります。

建設業振興基金は、この制度について、経営状況分析の「負債回転期間」の負債合計額から控除できる(経審の点数に関わる)と案内しています。扱いの詳細は負債回転期間(Y2)のガイドと、経営状況分析機関の案内で確認してください。

資金調達の手段全体の比較は建設会社の資金調達の手段を比較、代金が入る時期は公共工事の代金の支払時期で整理しています。

売る場合(ファクタリング)も承諾の対象か

約款第5条第1項は、請負代金債権を「譲渡」する場合を対象にしています。ファクタリングは、金融庁の説明では法的には債権の売買(債権譲渡)契約です。このため、公共工事の請負代金債権を売る場合も、約款の文言上は第5条第1項の承諾の対象になります。承諾を取らずに売ると、前の節の約款第48条の解除の対象になりえます。

契約を結ぶ前に、次の2点を確認してください。

  • 発注者が、そのファクタリング契約について承諾を出すか。承諾の条件は発注者の要領で決まる。
  • 契約の中身が、売掛先から回収できないときに売主が買い戻す、または売主の資金で支払う定めになっていないか。金融庁は、そのような取引は貸金業に当たるおそれがあるとしている。

ファクタリングを含む手段の費用や速さの比較は、資金調達の手段の比較にあります。

契約書と発注者で確かめる項目

債権の譲渡・担保を考えるときの確認項目
確認すること確かめる先わからないときの影響
契約の約款に、第5条第3項(資金不足のときの承諾)があるか契約書に付く約款承諾が原則か、発注者の裁量かが変わる
承諾を出す時期(出来高の何割以降か)発注者の取扱要領融資の申込みの時期を誤る
承諾の対象外の工事に当たらないか(低入札・役務的保証など)発注者の取扱要領承諾が出ず、融資の前提が崩れる
譲渡できる額の計算(前払金・部分払の控除)発注者の取扱要領・承諾書の様式借りられる額の見込みが変わる
譲渡で得た資金の使い道の制限と、使途を示す書類約款第5条第4項・承諾書他の工事の支払いに回すと解除の対象になる
承諾を取る前に、融資・譲渡の契約を結んでよいか融資事業者・発注者承諾を停止条件にする例がある(北九州市の要領)

契約書の読み方や個別の契約の法的な判断は、この記事の対象外です。個別の事情は、発注者の契約担当と融資事業者の窓口で確かめてください。

確認した一次資料

まとめ

  1. 公共工事標準請負契約約款の第5条第1項は、請負代金債権の譲渡・担保に、あらかじめ発注者の承諾を求めている。
  2. 約款の注は、検査合格後の債権譲渡と、債権を担保にした借入(地域建設業経営強化融資制度など)を承諾の例に挙げている。
  3. 第3項を使う契約では、資金不足の疎明があれば発注者は特段の理由がない限り承諾する。譲渡で得た資金は当該工事にしか使えない。
  4. 民法466条で譲渡の効力が妨げられなくても、承諾なしの譲渡は約款第48条の解除の対象になる。
  5. 承諾の時期・対象外の工事・譲渡できる額は発注者ごとに違う。受注した工事の発注者の要領で確かめる。

入札参加資格の等級と受注できる工事の規模は入札参加資格ランクの目安で確認できます。

評点表・算式の転記元は一次資料・出典一覧で確認できます。

よくある質問

公共工事の請負代金債権を担保にするのに発注者の承諾は要りますか?
公共工事標準請負契約約款の第5条第1項は、契約から生じる権利を第三者に譲渡させてはならないが、あらかじめ発注者の承諾を得た場合は除くと定めています。約款の注は、請負代金債権を担保に資金を借りる場合をこのただし書の例に挙げています。
承諾を取らずに債権を譲渡するとどうなりますか?
約款第48条第1項第1号は、第5条第1項に反して請負代金債権を譲渡したとき、発注者は直ちに契約を解除できると定めています。民法466条第2項で譲渡の効力が妨げられなくても、約款違反による解除は別に問題になります。
資金が足りないときに発注者は承諾を断れますか?
約款第5条第3項を使う契約では、前払金の使用や部分払等でも工事の資金が不足することを受注者が疎明したとき、発注者は特段の理由がある場合を除き承諾しなければなりません。第3項を使うかは発注者が選ぶため、契約書の約款で確認が必要です。
地域建設業経営強化融資制度の承諾はいつ出ますか?
発注者ごとに異なります。北九州市の要領は工事の進捗率が2分の1以上に到達したと認められる日以降でなければ承諾しないとしています。熊本県の要領は低入札価格調査の対象者との契約などを対象外にしています。

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