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経審Y点「利益剰余金」(X8)の計算|金額そのものを使う指標と評点への影響

利益剰余金÷1億円で求める、Y評点の8指標のうち寄与度4.4%(8指標中もっとも小さい)の指標です。8指標中2つだけの金額型指標のうち、営業キャッシュフロー(2期平均のフロー)とは異なる単期のストック指標である性質、上限100.0・下限-3.0の意味、評点への影響を実測で示します。

国土交通省の通知・手引き
編集:建設経営ラボ編集部(合同会社フューチャープロンプト) / 運営方針・出典

経審(経営事項審査)のY評点(経営状況)は8つの財務指標から求めます。そのうち「利益剰余金」は、関東地方整備局の手引きが示すY評点への寄与度が4.4%で、8指標中もっとも小さい指標です。手引きの表では「Ⅹ8」と表記されます。8指標のうち6つ(純支払利息比率・負債回転期間・総資本売上総利益率・売上高経常利益率・自己資本対固定資産比率・自己資本比率)は%やヵ月といった比率・期間ですが、残り2つ(営業キャッシュフローと利益剰余金)は決算書の金額を1億円で除した値を直接使います。同じ金額型でも、営業キャッシュフローは2期平均のフロー(一定期間の収支)であるのに対し、利益剰余金は基準決算1期分だけのストック(累積した内部留保)という違いがあります。この記事では、算式、上限・下限の意味、金額型指標であることの実務上の意味、事業年度が12か月に満たない場合の扱い、評点への影響を国土交通省の通知にもとづいて整理します。

利益剰余金の算式

利益剰余金は、会社が稼いだ利益のうち社内に留保してきた累積額を示す指標です。通知は算式を次のように定めています。

利益剰余金の指標値=利益剰余金合計の額÷1億円

通知は、「利益剰余金の額は、基準決算における利益剰余金合計の額(個人である場合においては純資産合計の額)を一億で除して得た数値(その数に小数点以下3位未満の端数があるときは、これを四捨五入する。)とする」と定めています。自己資本比率や自己資本対固定資産比率が基準決算における「純資産合計の額」を自己資本として使うのに対し、利益剰余金はあくまで貸借対照表の「利益剰余金合計」の額を使う点が異なります(個人事業主だけは純資産合計に読み替えます)。

出典: 国土交通省「経営事項審査の事務取扱いについて」(通知)「5 経営状況について(告示第一の二関係)」(8)利益剰余金の額について、および関東地方整備局「経営事項審査の手引き」別添資料(令和8年7月改正版)表4より

決算書の金額から求める手順

次の金額を例に、算式へ当てはめます(金額はこの記事の説明用に置いたもので、実在の会社のものではありません)。

利益剰余金の指標値の計算例(単位:万円)
項目金額計算
利益剰余金合計(貸借対照表・純資産の部)3,000万円3,000万円÷1億円=0.30
利益剰余金の指標値0.30このときのY評点は586点※

貸借対照表の「純資産の部」のうち、資本金・資本剰余金を除いた「利益剰余金」の合計額(利益準備金+その他利益剰余金)を使います。個人事業主は貸借対照表に利益剰余金の科目が無いため、純資産合計の額をそのまま使います。※他の7指標を後述の実測表と同じ値に据え置いたときのY評点で、正式な評点ではありません。

他の指標との違い:金額型指標とストック・フローの区別

純支払利息比率や自己資本比率など、Y評点を構成する8指標のうち6つは「%」や「ヵ月」といった比率・期間で、企業規模が異なってもある程度そろった水準の値になります。これに対し利益剰余金と営業キャッシュフローの2指標だけは、決算書の金額を1億円で割った値をそのまま使うため、企業規模がそのまま数値に表れます。

同じ金額型の2指標にも違いがあります。営業キャッシュフローは「審査対象年と前審査対象年の平均値」という2期平均のフロー(一定期間に生じた収支)であるのに対し、利益剰余金は基準決算1期分だけを使うストック(過去からの利益の累積額)です。決算書上も、営業キャッシュフローはキャッシュ・フロー計算書や損益計算書の複数科目から算定するのに対し、利益剰余金は貸借対照表の「利益剰余金合計」を1つ読み取るだけで済みます。

この性質は上限・下限の意味にも表れます。上限100.0は利益剰余金100億円の累積、下限マイナス3.0は利益剰余金マイナス3億円(繰越欠損金3億円分)に相当します。上限に達するには100億円という大きな累積利益が必要である一方、下限にはその33分の1程度の絶対値(マイナス3億円)で達します。上限・下限は0を挟んで対称な幅ではなく、絶対値でみると赤字側(下限)の方がはるかに小さい金額で到達する設計です。

上限・下限(-3.0〜100.0)

通知は、算出した数値に上限と下限を定めています。利益剰余金の指標値が100.0を超える場合は100.0と、マイナス3.0に満たない場合はマイナス3.0とみなされます。

利益剰余金は数値が大きいほど(内部留保が厚いほど)評点に有利です。経営状況点数(A)の算式での係数は0.0172で、寄与度は4.4%(8指標中もっとも小さい)です。ただし係数そのものは自己資本対固定資産比率(0.0011)や自己資本比率(0.0089)の方が小さく、利益剰余金の係数がもっとも小さいわけではありません(詳しくは次章)。

この数値はY評点の8指標一覧の「上限値100.0・下限値-3.0」に対応しています。

評点への影響(実測)

利益剰余金の指標値が1大きくなるとAが0.0172大きくなり、Aは167.3倍されてY評点になります(0.0172×167.3≒2.88)。これは自己資本比率(0.0089×167.3≒1.49)より大きく、8指標中もっとも小さい1単位あたりの効きというわけではありません。もっとも小さいのは自己資本対固定資産比率(0.0011×167.3≒0.18)です。寄与度4.4%が8指標中最小という順位は、1単位あたりの効き(係数×167.3)の大小だけでは説明できません。

次の表は、他の7指標をY点の計算例のまま据え置き、利益剰余金の指標値だけを動かしたときの実測です。P点は、モデルケース(完成工事高3億円・技術職員6名など)のYだけを8指標モードに差し替えて求めました。

利益剰余金の指標値だけを動かしたときのY評点とP点(エンジン実測)
利益剰余金の指標値経営状況点数(A)Y評点モデルケースのP点
-3.0(下限、利益剰余金マイナス3億円)-0.03578点695点
0.00.02586点696点
1.0(利益剰余金1億円)0.04590点697点
10.0(利益剰余金10億円)0.19615点702点
50.0(利益剰余金50億円)0.88730点725点
100.0(上限、利益剰余金100億円)1.74874点754点

利益剰余金だけで、Y評点は下限側の578点から上限側の874点まで296点、P点は695点から754点まで59点動きます。係数(0.0172)は自己資本比率(0.0089)より大きいものの8指標中もっとも大きいわけではありませんが、上限・下限の幅(103.0)が自己資本比率(137.1)に匹敵する広さのため、Y評点の総変動幅は自己資本比率(204点)よりかなり大きくなります。

上限・下限の外側の値を入れても、評点は上限・下限のところで止まります。エンジンでは-10.0を入れてもマイナス3.0と同じ578点、150.0を入れても100.0と同じ874点です。

この表は算式の感度を示す試算で、正式な評点ではありません。Y評点は登録経営状況分析機関の分析結果通知書の値が優先されます。利益の積み増しや資金繰りの進め方を助言するものではありません。

事業年度が12か月に満たない場合

通知は、事業年度の変更、商業登記法の規定に基づく組織変更の登記、他の建設業者を吸収合併した場合などの特殊な事由があり、審査対象年の間に開始する事業年度の月数が12か月に満たないときについて、純支払利息比率で使う売上高・純支払利息の額、総資本売上総利益率の売上総利益の額、売上高経常利益率の経常利益の額、営業キャッシュフローの法人税等の額の5項目を、年間平均完成工事高の算定の要領で求めると定めています。この5項目に、利益剰余金の額は含まれていません。

この特殊な事由を除き、単に審査対象年の間に開始する事業年度の月数が12か月に満たないときは、純支払利息比率と負債回転期間の2項目は最大値を、それ以外の項目(利益剰余金を含む)は最小値をとるものとして算定すると定められています。利益剰余金は数値が大きい方が評点に有利な指標なので、最小値=下限のマイナス3.0(もっとも不利な側)で算定されることになります。これは自己資本比率(Y6)や自己資本対固定資産比率(Y5)が最小値をとるのと同じ扱いです。

設立初年度などの個別の当てはめは、審査行政庁の最新の取扱いで確認してください。この記事は通知の規定を紹介するもので、個別の事案の判断や相談は受け付けていません。

まとめ

  1. 利益剰余金の指標値は、基準決算における利益剰余金合計の額(個人は純資産合計の額)を1億円で除して求める。8指標中、金額を1億円で除した値を使うのは営業キャッシュフローと利益剰余金の2つだけで、前者が2期平均のフロー、後者が単期のストックという違いがある。
  2. 100.0を超えれば100.0、マイナス3.0に満たなければマイナス3.0とみなされる。数値が大きいほど評点に有利。上限100.0(100億円の累積利益)と下限マイナス3.0(3億円の欠損)は絶対値で33倍の差があり、0を挟んで対称な幅ではない。
  3. 寄与度は手引き表4で4.4%、8指標中もっとも小さい。ただし係数0.0172自体は自己資本対固定資産比率(0.0011)や自己資本比率(0.0089)の方が小さく、利益剰余金がもっとも小さいわけではない。上下限の幅(103.0)が広いため、実測での総変動幅(Y評点で296点)は自己資本比率(204点)より大きい。
  4. 事業年度が12か月に満たない場合、事業年度変更等の特殊事由による年間平均算定の対象に利益剰余金は含まれない。それ以外の理由で12か月未満のときは、純支払利息比率・負債回転期間と異なり最小値(下限、不利な側)をとる。

Y評点全体の8指標と2段階の計算方法は経審のY点(経営状況)とはで解説しています。同じ財務健全性の指標である自己資本比率、キャッシュフローの指標は営業キャッシュフローで解説しており、自社の数値でP点全体を試算するには経審P点シミュレーターが使えます。

評点表・算式の転記元は一次資料・出典一覧で確認できます。

よくある質問

経審の利益剰余金はどうやって計算しますか?
基準決算における利益剰余金合計の額(個人事業主の場合は純資産合計の額)を1億円で除して求めます(小数点以下3位未満は四捨五入)。国土交通省の通知(8)利益剰余金の額についてが定める算式です。
利益剰余金の上限と下限はいくつですか?
上限は100.0(利益剰余金100億円相当)、下限はマイナス3.0(利益剰余金マイナス3億円相当)です。100.0を超える場合は100.0、マイナス3.0に満たない場合はマイナス3.0とみなして評点を計算します。
利益剰余金は他のY評点の指標と何が違いますか?
純支払利息比率や自己資本比率など8指標のうち6指標は比率(%やヵ月)ですが、利益剰余金と営業キャッシュフローの2指標だけは決算書の金額そのものを1億円で割った値を直接使います。同じ金額型でも、営業キャッシュフローは2期平均のフロー、利益剰余金は基準決算1期分だけのストックという違いがあります。
利益剰余金の寄与度・係数はどのくらいですか?
関東地方整備局の手引き表4によるとY評点への寄与度は4.4%で8指標中もっとも小さく、経営状況点数(A)の算式での係数も0.0172です。ただし係数そのものは自己資本対固定資産比率(0.0011)や自己資本比率(0.0089)の方が小さく、利益剰余金がもっとも小さいわけではありません。
利益剰余金が1ポイント(1億円)違うと、点数はどのくらい変わりますか?
他の7指標をY点の計算例に据え置いた本サイトのエンジン実測では、下限マイナス3.0(マイナス3億円)から上限100.0(100億円)までの103.0の幅でY評点が578点から874点まで296点、P点が695点から754点まで59点動きます。8指標中もっとも小さい寄与度(4.4%)ながら、上下限の幅が広いため総変動幅は自己資本比率(204点)より大きくなります。

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